霧矢あおいの日々シネマ

女優・霧矢あおいの映画ライフ

君たちはどう生きるか

 

君たちはどう生きるか

手書きタイトルでそう問われたら、ジブリで育った日本国民なら思うはず。「宮崎駿最後のメッセージをこの目で見届けねば。」と。

 

宮崎駿は私たちに何を伝えたいのか。本当の本当にこれが最後なのか。あの鳥はなんなのか…。SNSのネタバレを避け、さまざまな期待と疑問を胸に映画館へ。泣く準備はできているわ。

--------------(以下ネタバレ)----------------

 

 

結論、このタイトルは私たちへの問いかけ、では、ない。(多分)

 

映画の中に「私たち」の姿はなく、あるのは天才・宮崎駿の肖像…らしきものだけ。

 

わかったのは、宮崎駿は孤独で強く、そして天才であるとということ。

 

孤独ゆえに強いとか、天才ゆえに孤独、とかではない。

 

宮崎駿は徹底的に自閉した世界で、もういちど他者と関わる勇気を1人で紡ぎ出していく。

 

めくるめく誇大妄想の中で現実での自らのありかたを問い直すことができる、それこそが彼の才能そのものなのかもしれないと思ったわ。

 

わたしは天才ではないから宮崎駿のようにはいかないけれど、孤独な時、穏やかじゃない時にこの映画を思い出したら少しは力がもらえそう。

 

あと、これが最後とは言わず宮崎駿監督にはまだまだ作品を作ってほしいな。

 

 

 

 

 

 

 

「百合映画」完全ガイド

星海社さまから「『百合映画』完全ガイド」をいただきました。


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実は同人誌版の「百合映画ガイド」を読んで「完全」の書籍化も楽しみにしていたので嬉しいです。


表紙がもうすっごくかわいい。

志村貴子先生さすがすぎます。


この本が百合映画ガイドだからといってイラストの映画を観てる2人の女の子が百合なのかはわからない。それがイイ!


序文の論旨のように「百合」は観るものによって決められるということを表紙が肯定してくれるようにも思えます。


「完全」だけあって中身のボリュームが何よりすごい。アニメが少ないのは実写でページを使いすぎたから?


1930年代から2018年までの邦画、洋画、アニメ映画をピックアップ。


櫻の園」のような王道から執筆者の偏執的妄想としかいいようがないものまで。


でも大丈夫、百合は見る人に委ねられるのだから…。


優しい世界。


百合界にカップリング戦争を見ないわけがわかりました。


他に特筆すべきは執筆者の多様さ。



映画に特化したレビュアー揃いだけど、

性別、年齢はもちろんそもそも何を書くかという態度からしてそれぞれまったく違うのが面白いところ。


とりわけ「エモさ」にフォーカスし、観た映画の感想を友達と話すみたいに語る人、時代とジェンダー観を検証する人、レビューをしながらこの本の総括(!)を試みる人。


対談という形式を一切とらずに各々の分野で話す感覚が新しく感じました。


それにしても、夢中で全部読んだら気になる映画が増えすぎてしまいました…。


しかもソフト廃盤・未配信率が高くて穏やかじゃない!


気付いたら本はふせんだらけですが、ガイドブックらしさが増して愛おしいです。


こうして観たい映画ばかりが積み上がってゆくのもまた、アイカツなのではないでしょうか。





ハスラーズ

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「HUSTLNRS」

2019年

監督・脚本 ローリーン・スカファリア


演技に定評のある黒いこんまりことコンスタンス・ウーと我らのジェニファー・ロペス先輩の女バディもの。


ジェニロペのアラフィフとは思えない肉体美とファビュラスなポールダンスを予告で見てずっと楽しみにしていた映画!


ジェニロペのポールダンスは実際すごかった!けど、予告編を見たときの華やかなイメージが良い意味で裏切られたわ。


女たちは全員ガチガチのリアリスト。

男の人にもお金にも少しも夢は見ない。


それもそのはず。この映画の舞台はリーマンショック以前と以後のウォール街にあるキャバレーだから。


リーマンショック後の薄暗いムードは今のコロナショックにも通ずるものがあるわ。


この映画が日本で公開されたのは2020年の3月。日本でもコロナウィルス感染者が出ていた頃ね。


今こうして思い出すと、ハスラーズで描かれた世界は徐々に私たちの現実に迫っているのがわかる。


友情の強さと脆さ、すべてと無関係ではない社会の痛み。今見ておく映画ベスト1ね。






CURE

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「CURE」

1997年/脚本・監督 黒沢清


何も起きない平穏な場所で生きていると遠ざかっていく死への恐怖。でももしかしたら隣人が殺人鬼かもしれない。そして自分も…。


そんな恐怖の中に閉じ込めてくれるのがこの映画。


閉塞感を描かせたらピカイチの監督だから恐怖の中に観客を「閉じ込める」のはお手の物。


向こうが見えそうで見えない曇りガラス、風になびく廃墟のビニール、軽快だけど怖いカメラワーク、そして役所広司のクドい演技…。

これら全てが詰まった黒沢ホラーの真骨頂とも言える作品ね。



CUREの意味は救済。

救済という言葉は90年代には様々なところで見られた言葉。

オウムのサリン事件の前年に公開された作品だけど、タイトルもあって事件後に一躍有名になったわ。


その時はまだ生まれてなかったけど、不安の外にいた人たちに与えたショックは相当なものだったはず。


今はみんなが当たり前のように不安を抱える時代だけど、本当に怖いホラーは今見てもやっぱり怖いわ。




エベレスト3D

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「エベレスト3D」は2015年公開のノンフィクション・パニック映画


ミケランジェロや貞子、実在するものもしないものもとりあえず3Dにしていた時期よりは少し遅れて公開された印象ね。


原題は「Everest」だけど、日本では例によって3Dが付け加えられているわ。



ノンフィクションものだけど、自然対人のパニック映画という風にも観られる。

人を襲うのはひたすら自然の猛威よ。


でもそんな山が映し出すのは人間の愚かさ。


酸素を吸わずに登り切ることをポリシーに掲げる派閥と、それに突っかかる派閥あり。断崖絶壁の地での大喧嘩は別の意味でハラハラしたわ。


なぜ人は山に登りたがるのか。という問いの答えは、「そこに山があるから」だけではなく、案外お金と名誉が絡んでいることがわかったり、登山のリアルが興味深い。



空撮を駆使したエベレストの映像や、高いところから見下ろす険しい大地は圧巻だけど、最後までそれ以上のハラハラドキドキはあまりなかったかな。


背負っている酸素がなくなりそうになるシーンは正統派パニック映画っぽいけど、宇宙モノで死ぬほど観たからあまり新鮮味はないわ。



それよりも、この映画のキーワードはお金かも。


「お金って命綱なんだ。」ってこと、リアルに再確認できたわね。